Notice: Function _load_textdomain_just_in_time was called incorrectly. Translation loading for the acf domain was triggered too early. This is usually an indicator for some code in the plugin or theme running too early. Translations should be loaded at the init action or later. Please see Debugging in WordPress for more information. (This message was added in version 6.7.0.) in /mnt/efs/www/sagasu/wp-includes/functions.php on line 6121
第4回【前編】 日本人、いつになったら変われるのか? ~脳科学から考える日本人の特性と働き方~ | サーチ型ヘッドハンティング sagasu

Third Eye

第4回【前編】 日本人、いつになったら変われるのか? ~脳科学から考える日本人の特性と働き方~

サードアイ 2023.12.1

世の中にはさまざまな日本人論があふれています。たとえば、日本人はチームプレイが得意だけれども外国人は個人プレイが多いとか、日本人は空気を読むけれど外国人は空気を読まない、等々。
もしかしたら、自国民論が好きなのが日本人の特徴なのかもしれません。
日本人と欧米人の違いはどこにあるのか、今回は脳科学の観点から考察したいと思います。
日本では、どのような人事制度が企業に合っているのか、長く迷走状態が続いています。脳の違いから日本人に合った働き方が見えてくるかもしれません。

●日本人はそもそも不安遺伝子が多い民族
「長い物には巻かれろ」や「寄らば大樹の陰」、「物言えば唇寒し秋の風(何事につけても余計なことを言うと、災いを招くという意味)」など、昔はネガティブな意味で使われていたことが、いつの間にか「長い物には巻かれたほうが楽だよ」のように、いい意味で使われている気がします。それは、日本全体が「あきらめムード」で覆われているからではないでしょうか。
日本はバブル崩壊後、30年間経済成長をしていないと言われています。いつまでも晴れない閉塞感が漂っているのは、不安遺伝子が影響しているのかもしれません。
「セロトニントランスポーター遺伝子」というセロトニンの分泌を左右する遺伝子があります。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれていて、精神を安定させる物質です。これは脳から分泌されます。
セロトニントランスポーター遺伝子には、セロトニンを多くつくるL型(ロング)とセロトニンが少なくなるS型(ショート)の2つがあります。その2つを元に、SS型、SL型、LL型の3種類の組み合わせがあります。SS型の人は不安を感じやすく、LL型は前向きで楽観的、SL型はその中間と言われています。
日本人はSS型の遺伝子を持つ人が65%以上もいて、SL型は32%、LL型は3%ぐらいです。日本人はセロトニントランスポーターが世界で一番少ないそうです。つまり、不安を感じやすくて心配性になりやすく、ストレスにも弱いということになります。
一方、アメリカ人はSS型が19%で、SL型が49%、LL型が32%だそうです。
これを脳科学者の中野信子さんは、「コップの中に水が半分入っている時、もう半分しかないと考えるのが日本人、まだ半分もあると考えるのがアメリカ人」だと解説されています。
もしこれが事実なら、ムリにメンタルを強くしようとするほうが遺伝子に逆らっているのだとも考えられます。
また、中野信子さんは、「欧米人が幸福感を得る社会的成功や高い収入に対し、日本人はそんなに幸福を感じない、むしろ不安感が高まるという傾向がある」とも指摘しています。
欧米人は、自分のアチーブメント(達成)に対して脳内でドーパミンが放出されて幸福感を得る傾向が強く、日本人は人に必要とされているときにオキシトシンやセロトニンといった物質が放出して幸せを感じる傾向が強いのだそうです。
オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、とくに日本人はオキシトシンの受容体密度が高いとされています。これはコミュニケーションによって分泌されます。日本人は災害が起きると全国から支援物資が届いたり、ボランティアで被災地の支援に行く人が多いのも、「人に貢献したい」という意識が高いからではないでしょうか。
日本の企業は、バブル崩壊後に欧米型の成果主義を導入して失敗し、その後も手を替え品を替え、欧米型の人事制度や働き方を導入しようとしてきました。成果を追い求めることに幸福感を得る欧米人と違い、日本人は欧米型を目指せば目指すほど、不安感が高まるのでしょう。
個人の成果より、まわりに貢献できて初めて幸せを感じる日本人は、やはりチームで成果を上げるほうが向いているのです。

●日本人と欧米人では「音」の聞こえ方が違う
日本と海外では、動物の鳴き声の表現が異なります。
たとえば、日本では犬はワンワンですが、海外ではbow wow(バウ ワウ)やwoof(ウーフ)、猫のニャーニャーはmeow(ミャオウ)、カエルのケロケロはribbit(リビット)、croak(クローク)です。犬や猫はまだ分かりますが、カエルのribbitは「別の生き物と間違えてるのでは?」と思いたくなります。
それでは、セミの鳴き声は海外でどう表現するのでしょうか?
答えは、「表現がない」です。海外ではセミの鳴き声は「noise」、つまり雑音や「buzz(羽音)」で表現され、鳴き声を表す擬声語はありません。だから外国人が夏の日本に来ると、「このやかましい音は何だ?」「日本人は、こんな騒がしい中で暮らしているのか」と驚くそうです。セミの合唱は日本の風物詩で、「ミーンミーン」「カナカナカナ」「オーシツクツク」のように、セミの種類によって分けられているというのに。
なぜ、外国人にとってセミの声は雑音なのか、それは脳の働きが違うからのようです。
それを解明したのが、医学者である角田忠信博士の『日本人の脳: 脳の働きと東西の文化』(大修館書店)という本です。
角田博士がキューバのハバナで開かれた国際学会に参加した時のことです。歓迎会の会場に響き渡る「蝉しぐれ」のような虫の音が気になり、周囲の人に「何という虫か」と尋ねたところ、誰からも何も聞こえないと言われました。パーティが終わった深夜、二人のキューバ人と帰っていた時も、より激しい虫の音に草むらを指し示して「ここから聞こえるだろう?」と言っても、二人とも何も聞こえなかったそうです。
そのうち一人は3日目にようやく虫の音に気づいたものの、もう一人は1週間経っても分からないままでした。
そこから、日本人の耳と西洋人の耳には違いがあるのかもしれないと研究が始まります。そして、日本人は虫の音を左脳で聞いて、西洋人は右脳で聞いていることが実験で明らかになりました。
右脳は音楽脳や芸術脳と言われていて、西洋人は機械音や雑音と同様に虫の音を処理しています。左脳は言語脳と呼ばれ、日本人は虫の音や、風や雨の音も動物の鳴き声も左脳で処理しています。
これはどうやら、西洋人にとっては虫の音は雑音にしか聞こえず、「声」として認識できないということのようです。日本人も、テレビの砂嵐の音を「いい音だね」と言われても、雑音にしか聞こえないでしょう。そのような感覚なのだと思います。
このような特徴は、日本人とポリネシア人だけに見られ、中国人や韓国人も西洋型を示すそうです。
西洋人は論理的で日本人は情緒的と言われるのも、こういった脳のメカニズムに違いがあるから。日本人は虫の音で季節を感じ、風や雨の音に風情を感じて和歌や俳句を詠みます。     
世界的な天才数学者の岡潔は、「日本人は特にすべてを情緒として見るようである。和英で情という言葉を引くと、エモーションとフィーリングとしかないが、これらはみなひじょうに浅い情緒である」と語っています。
「人と人との間にはよく情が通じ、人と自然の間にもよく情が通じます。これが日本人です」と岡潔が語るように、日本には「八百万の神」という言葉があり、生きとし生けるものすべてに命が宿っているととらえています。自然と共に生きて来た日本人ならではの情緒であり、それを大切にすべきだと、岡潔は戦後急速に西洋化していく日本に警鐘を鳴らしていました。
角田博士によると、日本人でも外国語を母語として育てられると西洋型になり、逆に西洋人を日本語で育てると、日本型になるのだとか。
幼いころにどのような言語で育てられるかで音の処理の仕方が変わるので、「日本人の脳というより”日本語の脳”と言うべきだろう」と角田博士は述べています。日本語を話すから情緒的になるというのは、日本人にとって勇気づけられるのではないでしょうか。
40年以上前のこの研究は、最近になってMRIを使って調べてみたところ、同じ結果だったそうです。日本人は宝物である情緒をもっと大切にすべきかもしれません。

●「自己家畜化」された日本人
社畜という言葉が流行りましたが、日本の過労死は海外では「tsunami」と同じで「karoshi」という表現で使われています。元々、日本では滅私奉公が美徳とされていたので、自分を殺して組織に仕えることをよしとする風潮が今も根強くあります。これも日本人の特性なのでしょうか?
作家・橘玲氏の『スピリチュアルズ』(幻冬舎)によると、人格(パーソナリティ)は5つの因子で決まるという「ビッグファイブ理論」がSNSのアルゴリズムで使われているそうです。
ビッグファイブ理論は、1980年代にアメリカの心理学者ルイス・ゴールドバーグが提唱した、個人の性格に関する学説です。1940年代から様々な専門家が研究し、人の個性は5つの因子で分類できると言われてきました。

【ビッグファイブ】
・外交的/内向的
・神経症傾向(楽観的/悲観的)
・協調性(同調性+共感力)
・堅実性(自制力)
・経験への開放性(新奇性)

このうち、内向的で、周囲の顔色を窺って空気を読む一方で、不安や恥、恐怖などの悲観的な感情に敏感で、協調性の高さを求め、堅実であるものの、好奇心や創造性が低いのが日本人特性のパーソナリティと考えられるそうです。堅実性以外はネガティブなほうに寄っているので、少し悲しくなりますね。
橘氏は「日本列島は狭い平地に多くの人間が暮らすようになったことでムラ社会が極端なまでに進み、共同体の「和」を乱すものが嫌われて排除されるようになった。そのため、日本人は世界で最も『自己家畜化』された民族だ」と持論を述べています。
「自己家畜化」とは過激な表現ですが、コロナ禍で「自粛警察」が生まれて、国に命じられたわけではないのに勝手に取り締まる人たちが激増したのは、その一端かもしれません。
「和を以て貴しとなす」をよしとする日本で、協調性は美徳でもありますが、協調性の高い脳を持つ人ほど、復讐したい、他人を罰したいという心理が強く働くのだと、中野信子さんは指摘しています。
これは、前述したセロトニントランスポーターの量が少ないため、「世界でも、最も実直で真面目で自己犠牲をいとわない人々」である反面、「いったん不公平な仕打ちを受けると、一気に義憤に駆られて行動してしまう」性質をもっているそうです。
つまり、「自分もみんなに合わせてるんだから、あなたも合わせるべきだ」と他人に求めて、それに背いている人を全力で追い込んでしまうということです。群れることを求めて、群れから外れる人を許さない。まさに自己家畜化といえます。

●日本人は「美しさ」を重視する
このセロトニントランスポーターの量が少ないことは、他にも影響を及ぼしています。
日本人は「醜く勝つ」より「美しく負ける」ことを望む傾向があると、中野信子さんは指摘しています。『葉隠』の「武士道と云うは死ぬ事と見付けたり」という有名な言葉にも、その精神は表れています。
たとえば、サッカーのワールドカップでは外国の選手は平気で反則行為を行います。ブラジルでワールドカップが行われた時、ブラジルのエースであるネイマール選手をコロンビアの選手が膝蹴りをして腰椎を骨折させました。その試合ではブラジルは勝ちましたが、ネイマール選手が欠場したため、準決勝で敗退しました。ケガをさせた選手はW杯後にチームのキャプテンになっています。
これは日本では考えられないでしょう。
もし他国の選手を故意にケガさせるようなことをしたら、日本中からバッシングを受けるはずです。どんなに選手として能力が高くても、その後、日本のファンからもチームからも受け入れられなくなるのは目に見えています。
海外では「目的のためなら手段を択ばず」というのは当たり前ですが、日本では「そこまでして勝たなくていい」と多くの人は考えるでしょう。
日本人はセロトニントランスポーターが少ないため、自分が利益を失ってでも、不正をした相手に制裁を加えたい、という気持ちが世界一強い民族であると中野信子さんは述べています。
ある意味、正義感が強いのでしょうが、行き過ぎると同調圧力になり、集団で一人を攻撃することになりかねません。日本でSNSの炎上が起きやすいのも、セロトニントランスポーターが関係しているのかもしれません。

●日本人が長寿なのは脳が関係している?
ここまで読んできて、日本人の脳はネガティブなことばかりではないかと感じた方もいらっしゃるかもしれません。
セロトニントランスポーターが少ないのは、必ずしもネガティブなことばかりではないようです。中野信子さんは、悲観的になりやすく、まじめで慎重であり、粘り強い日本人だからこそ、長寿になれたとも語っています。
1921年に、スタンフォード大学のルイス・ターマン教授が、当時10歳前後の子供1528人の性格分析をしました。その後、彼らがどのような人生を歩んでいくのかを、5~10年おきに80年に渡って追いかけました。
このうち、70歳以上生き、健康で人生を謳歌したのは、良心的で慎重であり、悲観的で真面目な人だったのです。これは多くの日本人の傾向に当てはまります。
逆に、陽気で楽観的な人は長寿ではなかったのだとか。楽観的だと、危険な状況でも「何とかなるさ」と飛び込んだり、お酒を好きなだけ飲み、栄養バランスの悪い食事を取り、運動をしなくても「元気だから平気」と気にしないのかもしれません。とくにアメリカ人は肥満の人が多いので健康にそれほど気を使っていないように感じます。
セロトニントランスポーターが少ないのも、悪いことばかりではないのでしょう。
アメリカの人類学者であるルース・ベネディクトは、戦後に出版した『菊と刀』で、日本人についてこう語っています。
「菊も刀も、同じ日本像の一部なのである。日本人は攻撃的でもあり、温和でもある。軍事を優先しつつ、同時に美も追求する。思い上がっていると同時に礼儀正しい。頑固でもあり、柔軟でもある。従順であると同時に、ぞんざいな扱いを受けると憤る。節操があると同時に二心もある。勇敢でもあり、小心でもある。保守的であると同時に、新しいやり方を歓迎する。他人の目をおそろしく気にする一方、他人に自分の過ちを知られていない 場合でもやはり、やましい気持ちに駆られる」
この相反した特性を併せ持つのが日本人です。
大きな災害が起きたら助け合う一方で、元フィギュアスケート選手の羽生結弦さんを離婚に追い込むまで執着したりする。いい方向にも悪い方向にも作用しやすいのでしょう。
問題は、今は日本全体がOS(特性)に合わないアプリケーションを使っていること。欧米型の人事制度や働き方が日本人に合わないのは、日本人のOSと欧米人のOSが違うからではないかと、ヘッドハンターとして多くの企業と関わりながら感じています。

2023年12月1日 
武元康明