Third Eye
第3回 プロ経営者は、やはり日本にはなじまない
サードアイ 2023.1.26
近年、プロ経営者を輩出するための協会ができるなど、一見、日本でもプロ経営者の活躍が目立つようになってきた感じがあります。確かに、いくつかの成功例もあります。
しかし、プロ経営者が企業に不協和音を生んでいる現実もあります。今回は、プロ経営者を軸に、2つのテーマについてお話しします。
テーマ①:ヘッドハンターから見た後継者問題
2022年の春に、大手外食企業の役員が大学で行ったセミナーで「生娘をシャブ漬けにするような戦略」と発言し、物議を醸しました。多くの人は、「なぜ社員が自社の商品を貶めるような発言をするのか」と疑問に思ったでしょう。
その役員は元々外資系企業に22年間在籍し、最後は副社長を務めていた人物です。その後、大手外食企業には次期社長候補にあたる常務取締役として入社しました。つまりプロ経営者だったのです。
ここで言うプロ経営者とは、企業内で出世した社員をトップにするのではなく、他の企業で実績を上げた経営者を招いてトップに据えることを指します。
その役員は就任後に業績を回復させ、ヒット商品も生み出しました。しかし、経営者に求められるのはそれだけでしょうか?
東芝もメガバンク出身者を社長兼CEOに迎えましたが、海外投資ファンドに買収されそうになる騒動が起きました。このファンドはそのCEOが会長を務めていて、自ら買収案を持ち込んだことがバレて、同氏は辞任に追い込まれました。東芝は長きに渡って低迷していますが、同氏がトドメを刺したようなものでしょう。
私はこういう事例を見ていると、プロ経営者にはその企業の文化や製品を愛する気持ちが欠けているのではないかと感じます。
その企業がJALのように倒産寸前の危機にある場合は、外部から人材を登用してもうまくいきます。しかし、何も問題がない平時の状況で後継者を招き入れると、必ずと言っていいほど軋轢が生まれると、私の経験からも感じています。
企業が危機に陥っている時は「一緒に乗り越えよう」と結束感が生まれるのでしょう。さらに、社内に解決策がなければ社外の人材を頼るしかないという覚悟が社内にできているのかもしれません。
日産もカルロス・ゴーン氏を招いた時点では危機的な状況だったので、うまくいっていました。コストカッターと異名が付いたほどの強引な手法には賛否があると思いますが、実際に日産を立て直した点については評価されるべきでしょう。
しかし、そのゴーン氏も最後には日産から追い出されて、レバノンに逃亡する身になったのは周知の事実です。危機的な状況では受け入れても平時になったら排除するのは、完全に「日産の人間」として認めていなかったのではないでしょうか。
日ごろ、私は企業のOSと候補者のOSを合わせることが大事だと考えていますが、平時こそOSのマッチングが何より重要です。
企業のOS:経営理念やビジョン、社風(現場)、経営者や幹部の人物像、業界の文化や慣習など。個人のOS:理念や信条、信念やポリシー、夢、キャリアプランやライフプラン、人格など。 最近、日本電産の後継者と目されていた関潤社長が降格となり、その後退職したことが話題になりました。永守重信会長兼CEOが外部の人材をトップに据えるのは、関氏で4度目です。10年ぐらい前から元シャープの社長などの経験者を招き、幹部や社長に就けていました。つまり、プロ経営者に経営を任せようとしてきたのです。
しかし、自分で会社を一から築き上げた永守会長と、大企業の一社員としてやってきたプロ経営者のOSがマッチングするとは到底思えません。カリスマ経営者であればあるほど個性が強いので、OSのマッチングを図るのは容易ではないのは予想できます。ですので、その報道を見た時に「やはりそうなるだろうな」と感じました。
OSのマッチングをどんなに試みても、実際に入社してみると想定外の事態が起きます。したがって、後継者に関しては内部から昇格させるのが一番のマッチングではないかと、ヘッドハンターでありながらも思っています。
そのためにも、何十年もかけて社内で後継者を育てていく土壌を築くことが、持続可能な企業にするための最重要課題ではないでしょうか。
テーマ②:プロ経営者はやはり日本には合わなかった
私はプロ経営者について「日本の企業風土には合わない」とずっと考えてきました。しかし、sagasuをスタートさせた際に、プロ経営者斡旋も一つの看板として立ち上げてみました。
今は転職するのは当たり前になり、社員は必ずしも自社での出世を望んでいないこと。また、「ジョブ型雇用」を取り入れる企業が増えてきたので、欧米型の働き方が浸透していくのなら、プロ経営者もますます増えていく可能性があると考えたのが理由です。新たな日本型のプロ経営者を生み出そうと、真剣に考えていました。
ところが、実際に動き始めてみると、プロ経営者を受け入れる土壌がまったく育っていない現実を思い知らされたのです。
まず、プロ経営者の候補として目を付けた多くの敏腕人材にお会いしましたが、「日本では定着しないだろう」との言葉を受けました。
「内部環境に精通し、現場を知らないことには、本当の意味でグローバルでは戦えないと思う」と指摘した方もいらっしゃいました。
さらに、人材を売り込もうと打診したIT企業にも、「うちの経営陣は創業者と親しい人間で固めているので、それ以外の人材を採用する気はない」と断られました。
メディアでは「これから日本でもプロ経営者が活躍する時代になる」と言われていますが、企業の現場ではむしろ「なじまない」という風向きになっていると感じています。
プロ経営者が日本になじまない根本的な原因について、私なりに考えてみました。 1、ジョブ型雇用に合ったポジションである
そもそも、プロ経営者はジョブ型雇用から生まれたポジションです。
日本は新入社員から昇進して社長になるのは一般的ですが、サードアイ2回目のコラムで書いたように、欧米では現場と管理職が切り分けられていて、管理職になる人は新卒で入社した時点で管理職です。そして管理職になれるのは基本的にエリート校出身者だけであり、それ以外の学歴の人は、どんなに頑張って働いても一生平社員です(稀にノンエリートが出世する場合もあります)。新卒で入社してから退職するまで、何十年間も給料が変わらないままの場合もあるそうです。
今以上の給料をもらうには、今以上の給料を払ってくれる会社に転職するしかありません。だから欧米では転職が盛んなのです。
日本も大企業のトップになるのは一流大出身者が多いですが、現場で一から学んで出世していくので、その点が欧米とは大きく違います。
ジョブ型だと管理職は現場で働いた経験がないので、現場の社員にも、自社の製品やサービスにもそれほど思い入れを感じなくても不思議ではありません。社員も、管理職との精神的な距離感が遠いと愛社精神など感じないでしょうし、誰がトップになっても関心はないかもしれません。そのような環境で外部から来た人材が経営者になっても、それほど混乱はないだろうと推測できます。 2、欧米は株主至上主義である
欧米は株主の立場が強いので、今の経営陣では業績がふるわないなら、プロ経営者を入れて短期的に利益を上げるしかない企業も多いでしょう。業績を上げることで株価も上昇すれば、株主は満足します。
ただ、経営者の皆さんは実地で経験されているでしょうが、経営は好調な時期が永遠に続くわけではなく、低迷する時期や衰退する時期もあります。それは経営者の実力に関係なく、今ならウクライナとロシアで戦争が起きるなど、外部的な要因で起きる場合も多いのです。
それにも関わらず、2・3年経営が悪化したからと新しい経営者を外部から招いていたら、本当の意味での企業の再建を果たせません。短期的に黒字にするには社員を大量に解雇して、製品やサービスを値上げしたり、製造コストを抑えるなどすれば、すぐに実現できます。
しかし、それらの方法は表面的な解決策にすぎません。短期的に業績を回復させても、企業の風土を根こそぎ変えてしまう劇薬のような方法です。
現在、イーロン・マスク氏がツイッター社を買収して、大勢の社員を解雇し、強引に黒字化しようとしています。そのうえ、本人はすでにCEOを退くつもりだという報道もあります。ツイッター社が持ち直すのか、立ち直れないほどのダメージを受けるのかは、しばらくしたら分かるでしょう。
アメリカでは、株主至上主義には限界があるという風潮になってきました。
2019年にアメリカの経団連的な団体であるビジネス・ラウンド・テーブルが株主第一主義を見直し、1番が顧客、2番が従業員、3番が取引先、4番が地域社会、株主は最後に位置付ける経営に切り替えると発表しました。インフレが収まるまでは企業もそんなことを考える余裕はないでしょうが、いずれ株主至上主義は終焉を迎えるのかもしれません。
日本は欧米を追従するのではなく、最低でも10年ぐらいのスパンで一人の経営者に会社のかじ取りを任せたほうがいいのではないかと感じます。 3、日本は社内での人材育成に力を入れている
日本は多くの企業で社内での教育体制をしっかりと整えて、新入社員から人材を育てています。能力が低い社員であっても、何とか能力を引き上げようと教育の場を設けるのが日本企業の特徴です。
教育に力を入れる分、良くも悪くも企業の風土に染まっていき、集団主義になっていきます。それが度を超すと同調圧力になり、集団の外から来た人間を排除しようとします。
そのような環境では、プロ経営者を招き入れられるようなオープンな雰囲気にはならないでしょう。いくらプロ経営者が旗を振っても、社員はついてこないかもしれません。
欧米でも人材教育をしていますが、幹部候補やポテンシャルの高い若手社員に絞っている点が異なります。能力の低い人に対しては教育の場を設けず、切り捨てて優秀な人材を入れて企業を維持しています。
集団より個の能力を重んじているので、プロ経営者が来ても、その人が優秀であれば周りはみな認めるのではないでしょうか。 私は以上の3つの理由から、日本にはプロ経営者はなじまないと考えています。企業の体質は日本型のまま頭だけ欧米型に変えたら、内部が混乱するのは目に見えています。
実は、株主至上主義の筆頭であるGAFAM(Google、Apple、Facebook 、Amazon、Microsoftの略)でも内部昇進がメインです。
マイクロソフトはビル・ゲイツの後にCEOになったスティーブ・バルマー、サティア・ナデラ共、一従業員としてキャリアをスタートした内部出世組です。スティーブ・ジョブズの亡き後にアップルのCEOになったティム・クックも20年以上アップルで勤めています。アマゾンもグーグルも、創業者の後にCEOになったのは企業内で実績を挙げた人物です。
それは、日本の企業が昔から実行してきたことではないでしょうか。
もっとも、冒頭で述べたように、プロ経営者を招いてうまくいっているケースもあります。その企業の風土を重んじ、改善すべきところを変え、成長軌道に乗せられるなら、プロ経営者であってもなじめるのではないかと思います。
しかし、スーパーマンを呼ぶような安易な解決策に頼るのではなく、社内の人材で乗りきるほうが企業は強くなれるのではないでしょうか。
2023年1月26日 武元康明